鉄腸野郎と昔の未公開映画を観てみよう!

鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!の別館。ここでは普通の映画史からは遠く隔たった、オルタナティブな"私"の映画史を綴ることを目的としています。主に旧作を紹介。

Leida Laius&"Libahunt"/エストニア、大いなる森の中で

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"Libahunt" / "人狼" (監督:Leida Laius, エストニア, 1968)

エストニアの山奥、その森の奥深くで1人の女性が魔女として火炙りの刑に処されることとなる。彼女の娘であるティナは、その後孤児のマルグスやマリと共に農場で暮らし始める。しかし母を襲った脅威は、ティナの元にも忍び寄ってくる。

冒頭、月光に染まった波紋に震える水面を映したショットからただならぬことがハッキリ分かるだろう。そして猥雑な活気に満ちた狂騒、束の間の美しい愛の風景、一転して狂気に支配された処刑場面。矢継ぎ早に綴られる異様な光景の数々は観る者の心を奪って止まないだろう(その雑駁で熱狂的な力強さはところどころアンジェイ・ズラウスキーを彷彿とさせる)

正直言って、物語はあってないようなものであり、今作は万華鏡的な映像詩と形容した方がしっくりくる。過去と現在、現実と幻想が、悪夢と白昼夢のあわいを錯綜しながら、世にも不穏で洵美なる映像詩を紡ぎだす。鋭利な白と黒のコントラストや耳元で不気味に爆ぜる響きの数々もなかなか強烈であり、幻想は猛烈な形で観客の世界を侵食していく。

エストニアにおいて森は特別な意味を持つとは、この国期待の中堅作家ヴェイコ・オウンプーが映画祭で証言していた。今作でも鬱蒼たる森は重要な存在である。その大いなる寛容さで人々を包み込むかと思えば、淀んだ仄暗い力で人々を狂気へと絡め取っていく。この作品で描かれる森ほど聖なる雰囲気に満ち溢れ、崇敬の念を起させるものはそう多くないだろう。

Leida Laius(レイダ・ライウス)は1923年生まれの映画作家だ。演劇を学び俳優として活躍した後、彼女は映画作家に転向し作品を製作し始める。今作は第2長編で、1973年には同名の小説を元とした作品"Ukuraru"を、1985年には少女の孤児院での過酷な生活を追った青春映画"Naerata ometi"を監督する。彼女はエストニアでもあまり評価されることはなかったらしく、1996年に亡くなるまでたった10本の長編しか残していない。Wikipediaにも簡単な略歴とフィルモグラフィが掲載されているのみだ。しかし"Libahunt"を見る限り、彼女は映画史に残るべき作家だということは一目瞭然である。ということで観られる作品は観て、ここでレビューを書いていきたいと思う。

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