鉄腸野郎と昔の未公開映画を観てみよう!

鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!の別館。ここでは普通の映画史からは遠く隔たった、オルタナティブな"私"の映画史を綴ることを目的としています。主に旧作を紹介。

Milutin Kosovac&"Devetnaest djevojaka i jedan mornar"/セルジュ・ゲンズブール in ボスニア

"Devetnaest djevojaka i jedan mornar" / "19人の少女たちと1人の海兵" (監督:Milutin Kosovac, ボスニア, 1971)

ナチによる侵攻が激化していたボスニアのある地域、劣勢に追い込まれたパルチザン部隊だったが、傷ついた彼らを救うため旅を続けるのが海兵隊の男率いる19人の女性部隊だった。彼女たちは負傷した兵士たちを各地で救出しながら、ナチが跋扈する山の中を旅する。

ユーゴ映画を探索していた最中に見つけたのが、この驚愕のボスニア映画。何が驚きって主演が何とフランスの大スターであるセルジュ・ゲンズブールジェーン・バーキンなのである。時期は1971年なので「ガラスの墓標」直後に出演したらしい。いつの間にユーゴに出稼ぎに行ったのかという感じだ。

物語の主軸は女性部隊の旅路である。険しい山道を進んだり、ドイツ兵どもをブチ殺したりブチ殺されたり、傷ついた兵士たちを癒したり、そういった風景が断片的に描かれる。正直言うと、その淡々たる構成はかなり味気なく、キャストの無駄な豪華ぶりに反して内容はそれほど面白くない。

それより変なところを書くべきだろう。まずド直球におかしくて失笑なのが、ボスニア兵もドイツ兵もみな全員フランス語で喋るのである。実際の歴史にお前らそんな関わってねーだろという。「イングロリアス・バスターズ」以後に観ると滑稽以外の何物でもない。ゲンズブールたちありきで作られたのが丸分かりの趣向である。

そして当のゲンズブールたちはというとである。バーキンは山道を登ったり、川を渡ったり、機関銃を構えて敵をブチ殺したり、無駄に全裸になって湖で泳いだり体張ってるが、ゲンズブールは当の旅の場面はほぼ出てこず、野原とかで休憩する時だけひょっこり現れ、リーダー面をする。お前、隊のリーダーじゃねえのかよ?そして出てきたかと思うと、バーキンとイチャコラして公私混同をかますバーキンが戦闘中ライフルで敵兵をブチ殺した後「これが武勲のメダルさ」と、ゲンズブールが路傍に咲いていた一輪の花を渡す場面は失笑通り越して、もはや微笑ましい。完全にゲンズブールバーキンカップルの接待映画である。

とはいえ良い所もある。おそらく当時のユーゴ映画としては金がかかってるのではないだろうか。冒頭から爆破に銃撃にとなかなか迫力がある。全体的に銃撃戦にはかなり力が入っている。そしてボスニアの寒々しく広大な大地を背景に、多くの軍勢が迫ってくる場面のショットなども美しい。が、まあ今作は相当の物好きか筋金入りのゲンズブールマニアorユーゴ映画マニアにしか薦めない。上映時間は72分と短いので暇潰しにはありかもしれない。

監督のMilutin Kosovac(ミルティン・コソヴァク)に関してはあまり情報がない。ゲンズブールと画外を作るわりには無名でかつ寡作だ。1964年製作の"Dobra kob"は、ユーゴへ狩りにやってきた男が猟場の番人が悪名高いナチだったのではないか?と疑心を深めるサスペンスで、1966年製作の"Sunce tudeg neba"はドイツへ出稼ぎに向かうユーゴ人労働者たちの姿を描いた作品、1985年製作の"Ada"は1人の女性が息子のよりよい未来のため仕事を探す姿を描いた作品だそう。生涯ボスニアで映画を作り続けたようだ。

フランス版ポスター。ゲンズブールの顔が濃厚。