Zbyněk Brynych&Transport z ráje/楽園から遠く離れて
"Transport z ráje" / "楽園からの輸送" (監督: Zbyněk Brynych, チェコ, 1962)
舞台は第2次世界大戦最中のプラハ、ここにゲットーであるテレシンが形成され、数多くのユダヤ人が住むことを余儀なくされていた。まず今作はそんなゲットーの姿を描き出す。表面上ユダヤ人は自由を謳歌しているように思われるが、実際にはナチスによる日常的な虐待や言論規制など、そこに真の自由は存在してない。ゆえに自由を求める若者たちは地下に潜って生活をしている。
そしてナチスドイツはある計画を着々と進めていた。ここに住むユダヤ人たちを無差別に選んで、絶滅収容所であるアウシュヴィッツに輸送しようというのだ。そんな残酷な計画が進む中、地下の若者たちは過酷な状況でも青春を謳歌していた。直情的に愛に生き、そうできないものは彼らの幸運をやっかみ、それぞれが軽やかに若さを生きていく。だがそうできるのも時間の問題であった。
今作に描かれるプラハの風景(もしかしたら違うかもしれないが)は端正でとても美しいものだ。古きものの滋味深い趣がそこには宿っている。それと同時にモノクロームの色彩はこれらに鬱々たる雰囲気をも宿していく。それは人々の抑圧された心が反映されているのだろうと思わされるほど、灰色の荒涼を湛えていると言ってもいい。
そして少し興味深く思ったのは、この時代のチェコスロヴァキア映画を観るにあたって、ナチスドイツが出てくる作品はとても多いわけだが、そのドイツ軍の多くがちゃんとドイツ語を喋っているのである。同時代のアメリカ映画などでは望むべくもないが、チェコスロヴァキア映画は完璧にドイツ人俳優かドイツ語が流暢な俳優を雇っているようだ。それほど歴史問題には敏感であるということだろう。
終盤は本作でも最も印象的だ。空き地に集められたユダヤ人たちはドイツ軍兵士によって名前を呼ばれ、一ヶ所に集められていく。そして彼らは粛々と列車に乗ることになる。絶滅収容所へと向かう列車へ。この光景を何の虚飾もなく、淡々と描き出すのだから恐ろしいものだ。死への道筋はこうして静かに描かれていったのだということを改めて思い知らされる。