Boštjan Hladnik&"Peščeni grad"/スロヴェニア、三角関係の行く末
"Peščeni grad" / "砂の城" (監督:Boštjan Hladnik, スロヴェニア, 1963)
2人の男が車で道を走り続けている。そこで現れたのが1人の謎めいた女性だった。彼女は同乗したいと頼んでくるのだが、何か秘密がありそうだ。それでも彼らは女性を車に乗せて、再び走り始める。
今作は涼やかな風のような自由な雰囲気が持ち味だ。女性はかなり気分屋な性格であり、車から降りたかと思えば、森の中をまるで妖精のように駆け抜け、さらには寝転がって自然の声を聞こうとする。男たちはそんな自由すぎる彼女に振り回されながらも、それを楽しんでいるような風でもある。
印象的なのは代わる代わる現れるスロヴェニアの自然だ。鬱蒼たる森、枯木が1本だけ立った荒涼たる広野、美しい波がゆったりと揺れる海岸。そういったスロヴェニアの大地が育む広大なる美が現れては消えながら、3人の旅路を祝福するのだ。
今作の製作年は1963年であり、明確にヌーヴェルヴァーグの影響を受けた作品と言えるだろう。というか今作の監督Boštjan Hladnik ボシュチャン・フラドニクのデビュー長編"Ples v dezju"がユーゴスラビアにおけるヌーヴェルヴァーグの嚆矢と呼ばれていて、その路線をさらに突き詰めた作品が今作という訳である。ちなみに長編製作の前にはパリに留学しており、そこでクロード・シャブロルやフィリップ・ド・ブロカ作品の助監督もしていた。
その中でも最も大きく影響を受けているだろう作品が「突然炎のごとく」だ。そこで描かれた男女の三角関係は今作にも継承され、スロヴェニアの大地で美しく輝く。彼らの関係性は親密に弛緩するか思えば、命の鬩ぎあいを思わせるような緊張感を孕むこともある。だがそれが2人の男の間だけで行われていた妄想だったと明かされる場面は痛烈だ。そして愛は脆くも打ち砕かれるのである。