Jože Babič&"Po isti poti se ne vracaj"/スロヴェニア、憎悪の行く末
"Po isti poti se ne vracaj" / "来た道を戻るな" (監督:Jože Babič, スロヴェニア, 1965)
青年マチェクはボスニアからの移民として、スロヴェニアで暮らしていた。故郷は貧しいゆえに出稼ぎに出ないと生計が立てられないのだ。彼は友人たちとともに、工事現場で作業員として働くのだったが……
冒頭から予告されているが、マチェクの希望は容易く潰えることになる。彼は暴力沙汰を起こし、追われる身となるのだ。ここでの監督の演出は、喧嘩場面の横移動撮影や汗臭い闇のカラリングなど尖鋭だ。それは同年代に日本で作られたプログラム・ピクチャー群のように熱気に満ち、鋭い。
さてスロヴェニアにおいてはボスニア人は露骨に差別されることになる。工事現場の監督たちにいびられ、警察官たちには随時マークされる。そしてマチェクの友人にはスロヴェニア人と恋に落ちる者もいるのだが、彼らの前には偏見という大きな壁が立ちはだかっている。
ユーゴ間において北は裕福な地方であり、南は貧しい地方という風景が広がっている。それ故に南のボスニア人が北のスロヴェニアに出稼ぎをするというのは多かった。そしてそんな出稼ぎ移民であるボスニア人をスロヴェニア人は軽蔑し、差別したのである。ここでは第1世代が被る差別が描かれるが、ここに身を置いた人々から生まれた第2世代のボスニア系スロヴェニア人が被る差別については2013年製作の"Chefurji Raus!"に詳しい。
今作はそうしたボスニアに根づいた差別を忌憚なく描き出した作品だ。マチェクの恋人がスロヴェニアにやってきた時、警察から逃げ隠れる彼とやっとの再会を遂げる。しかしこの国にいる限り、日の当たる場所で幸せに抱きあうことはできない。差別は悲劇しか生まないのである。