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鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!の別館。ここでは普通の映画史からは遠く隔たった、オルタナティブな"私"の映画史を綴ることを目的としています。主に旧作を紹介。

Frank Ripploh&"Taxi zum klo"/ゲイよ、トイレ行きタクシーに乗れ!

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"Taxi zum klo" / "トイレ行きタクシー" (監督:Frank Ripploh, 西ドイツ, 1980)

今作の主人公フランクは昼は小学校教師として働きながら、夜はハッテン場で男を漁るヒップなゲイである。例えば彼はハッテン場のトイレで宿題の採点をしながら、覗き穴から男たちのプリケツを吟味する。そしてトイレの壁から時おり剥き出しのチンコが現れるので、それを手コキしたりするのだ。彼はそんな日々を楽しんでいた。

前述通り、今作の性描写はあけすけで、80年代という時代を考えればかなり大胆だ。当然のようにセックスはバンバン映るし、アナルに挿入すれば射精だってする。さらに主人公は殊勝なことに性病検査にも行くのだが、その過程も逐一描写する。アナルがヒクヒクする様を延々見せられる様は「ロマンスX」の出産場面並みの衝撃である。

そんなある日、彼は映画館でベルントという男と出会う。彼と意気投合したフランクはそのままセックスにもつれこむ。さらに恋人関係のようなものにも発展していくのだったが、移り気なフランクはフラフラと様々な男の元を彷徨い……

フランクとベルントのすれ違いは何というかポリアモリーとモノガミーの認識の違いを表しているようである。それを象徴している場面がある。フランクは偶然乗ったタクシーの運転手と冬空の下でセックスに励む。その一方でベルントは彼とハネムーンに行こうと旅行会社で色々と吟味をしている。そんな場面が交互に切り替わる様は、2人の意識が明確にすれ違っていることを表現していて辛いものだ。

今作はゲイとしての生き方と愛の普遍的な難しさを両立した作品である。そして現在でも珍しいだろう、底抜けに明るいクィア映画として傑作だ。雪の公園を散歩するうち、フランクはベルントのために立ちションでハートマークを描き出す。その時の多幸感ったら! 難しい時期はあれども、そんな感覚が今作には満ち渡っている。

監督のFrank Ripploh(フランク・リプロー)は主演も兼任しているのだが、俳優としてはファスビンダーの「ケレル」や「未来世紀カミカゼ」に出演していた。更には実際に小学校教師としても勤務していたらしい。ゲイというのを表立って宣言していたので、ドイツ当局に非難されていたという。そして7年後に彼は今作の続編"Taxi nach Kairo"を監督するのだが、ここからはそのレビューに入っていこう。

8年が経ちベルントと別れた後も、フランクは気ままな生活を送っていた。しかし母親から結婚しろと詰め寄られ、仕方なく相手を探し始める。そして見つけたのが俳優のクララだった。首尾よく彼女と偽装結婚を図り、郊外に身を落ち着けるのだったが、彼は隣人のホットな男性オイゲンと出会ってしまう。

今作の内容は古典的な三角関係とゲイの偽装結婚である。ハイテクオタクのオイゲンはクララに色目を使う一方で、フランク自身も彼の魅力に惹かれていく。さらにフランクは普通に男たちと浮気しまくっているので、偽装結婚は揺らいでいくのである。

前作"Taxi zum klo"は初監督作というのもあり、演出的にはかなり荒い部分があった。撮影や編集なども粗削り感が強かったのだ。今作ではRipplohの演出は洗練されており、堂々として滑稽なメロドラマとしての体裁を誇っている。

が、それは良いことだとは言い難い。前作には荒いゆえの粗削りなパワーが存在していた。初期衝動をそのまま映画に刻みつけるような力が存在していたのだ。だが洗練によって古典回帰的になったことで、その力が失われてしまった。さらに前作ではあれだけ大胆だった性描写の数々が一切なくなってしまった。その大胆さに親しんでいた者としては悲しいことこの上ない。

という訳で"Taxi zum klo"は世界各地でカルト的な人気を博することになったのだが、待望の続編であった今作はドイツ国内ですら人気を獲得することなく、映画史の闇に埋もれてしまった。そしてRipplohもこの結果に落胆したのか、映画界から姿を消してしまった。そして2002年にガンでこの世を去った。

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