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Algimantas Puipa&"Moteris ir keturi jos vyrai"/リトアニア、1人の女と4人の男たち

LRT plius“ žiūrovai pamatys atgimusį filmą „Moteris ir keturi jos vyrai“ |  Alfa.lt

"Moteris ir keturi jos vyrai / 1人の女と4人の男たち" (監督:Algimantas Puipa, 1983, リトアニア)

ある1人の女がいる。彼女の夫は海難事故で帰らぬ人となる。そして彼女は夫の長男に引き取られ、彼の妻となる。だが彼もまた死に、今度は夫の次男の妻となる。だが彼も亡くなり、女は夫の父親の元へ行くことになる。

今作の物語は1人の女性が夫の親類に妻として引き継がれていくという、現在の観点から見ればかなり悍ましいものである。しかし今作は、それがリトアニアの歴史に確かに存在した一場面として真正面から描きだそうとするのである。

まず印象的なのはバルト海沿岸部の凄まじいまでの荒涼ぶりである。そこは生命の全て死滅したような砂の荒野が広がっており、見るも無残な姿を呈している。砂丘は濃厚な汚穢に覆われており、その悪臭がスクリーンから漂ってくるようである。

そして女性が2番目の夫を見送る時、彼らは砂浜に立ちずさむ。2人の奥には砂浜に無数の十字架が刺さっている光景が見て取れる。これは夫の来たる死を饒舌なまでに予告している。そうした不穏なる予感と、時には直截たる死が今作には溢れているのである。

だがそれに反して今作の撮影は息を呑むほどの崇高さに溢れていると言ってもいいだろう。風景には常に半透明の霧がかかっているのだが、その奥から絶望を体現したかのような汚穢の砂丘や鈍重な波が現れる時、そこには荒廃の詩が浮かびあがるのである。この類稀な詩が今作を支えているのだ。

そして主人公である女性の姿も印象的だ。彼女はまるでこの荒廃の大地に憑りついた亡霊のような佇まいであり、夫が変わろうともほとんど動じることはない。それでも物語が進むにつれ、これが彼女にとって唯一の生存の術であることが分かってくるだろう。だからこそ女性の身体には常に悲愴感が宿るのだ。今作は19世紀リトアニアの歴史を、ある女性の苦難の人生より描きだそうとする野心的な試みなのである。

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