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鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!の別館。ここでは普通の映画史からは遠く隔たった、オルタナティブな"私"の映画史を綴ることを目的としています。主に旧作を紹介。

Rezo Esadze&"Love at First Sight"/アゼルバイジャン、一目惚れは切なく

Любовь с первого взгляда (СССР, Грузия, 1975) – Афиша-Кино

"Love at First Sight / Любовь с первого взгляда / 一目惚れ" (監督:Rezo Esadze, ソ連, 1975)

"Love at First Sight"はまずアゼルバイジャンの首都であるバクーに広がる日常を描きだしていく。住宅街では住民たちがのべつまくなしに喋りまくり、通りでは羊をめぐって争奪戦が開始される。それを尻目に少年たちはサッカーに明け暮れ、快活にボールを追い続ける。ここに溢れる生命力が今作の要でもある。

主人公はサッカーをする少年の一団にいるムラドだ。ある時、彼は吹っ飛んでいったボールを取りに建物を登っていくのだが、そこで窓から見えたのは裸で読書をする少女の姿だった。その衝撃は雷撃を喰らったようなものであり、しばし呆然と立ち尽くしてしまう。少年たちに促され彼はやっと下へ降りていくのだが、その感情が初恋というものだということを彼はまだ知らない。

こうしてムラドと少女の恋の物語が始まるのだが、最初の障害となるのは身分の差だ。ムラドは貧困に喘ぐ労働者階級ながら、少女は優雅に文学を楽しむことのできる中産階級である。少女の周りの人間は教養もないと断じムラドへの軽蔑を隠さないながら、積極的に慕ってくるムラドに対して少女の心は少しずつ傾き始める。

今作において巧みなのはLeda Semyonovaが手掛ける編集だ。物語は冒頭のような群像劇的なバクーの風景と、ムラドの恋の物語を行きかう。ここで彼女の編集はこの都市の活気ある犇めきの風景と青年の揺れ動くちっぽけな心、つまりマクロとミクロの世界を平行に、平等に提示し、物語世界の奥深さをより盤石なものにしていく。世界には小さな愛が力強く根づいているのだと、その編集は気高く語るのだ。

編集技師Leda Semyonovaのキャリアは頗る興味深い。この作品はキャリア初期の1作だが、以後アレクセイ・ゲルマンの「我が友イワン・ラプシン」やSvetlana Proskurinaの"Accidental Waltz"、ソ連映画最後の傑作であるAndrei Chernykhの""The Austrian Field"などを手掛けると同時に、アレクサンドル・ソクーロフの編集上のパートナーとして「孤独な声」から「牡牛座 レーニンの肖像」まで彼の作品を手掛けていた。現在は活動していないようだが情報がロシア語しかなく、キャリアの全貌が分からないのが歯痒い。

そして物語における生命力は爆発的な膨張を遂げていく。それを象徴するのが住宅街での葬式の場面だ。ここにおいて描かれるのは死だが、住民たちはありあまる生命力を以て死者を見送る。爆ぜるような絶叫、誇張された身振り、咲く極彩色。エミール・クストリツァ作品をも想起させるこの狂騒の中でこそ生が祝福されるのだ。

さらにまたムラドの初恋も寿がれることとなるのだが、それは単純な大団円とは行かない。様々なうねりを越えて、彼らの愛は深まっていくが、どうしようもない壁すらもそこには存在する。そこにおける挫折の切なさもまた寿がれるべきものなのだろう。

Rezo Esadze რეზო ესაძე テンギズ・アブラゼゲオルギー・シェンゲラーヤに比べると知名度は若干落ちるが、彼もまたソ連時代に活躍したジョージア人監督の1人である。1934年ジョージア・シェモクメディ生まれ、トビリシ大学と全ロシア映画大学で学んだ後、映画製作を始める。生まれ1967年制作、孤児の少年を描いた4つのオムニバス短編集"Четыре страницы одной молодой жизни / Four Pages of a Young Life"がデビュー長編、今作は第3長編にあたる(という訳で今作はジョージア人監督によるアゼルバイジャン映画というソ連時代特有の作品となっている)その後はジョージアで映画製作を続けるが、1985年のコメディ映画"ნეილონის ნაძვის ხე / The Nylon Christmas Tree"からはしばらく映画製作から遠ざかる(俳優としては活動していたようだ)それでも2005年にはソ連崩壊後に独立を果たしたジョージアを描く"ჭერი ანუ დაუმთავრებელი ფილმის მასალა / The Roof or the Unfinished Film Material"で映画監督に復帰、2016年に"Month as a Day"を監督した後、2020年に86歳でこの世を去った。

Любовь с первого взгляда (1975) - Trakt.tv