鉄腸野郎と昔の未公開映画を観てみよう!

鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!の別館。ここでは普通の映画史からは遠く隔たった、オルタナティブな"私"の映画史を綴ることを目的としています。主に旧作を紹介。

Christo Christov&"Barierata"/響く旋律、たゆたう愛

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"Barierata" / "境界" (監督:Christo Christov, ブルガリア, 1979)

アントンは初老の音楽家だ。しかし彼は独身で、気ままな時を過ごしている。ある時彼はドロテアという若い女性と出会う。不思議な雰囲気を纏う彼女は、車で家に送ってほしいと言うのだが、彼女の家がどこだかハッキリしないまま、アントンは成り行きで彼女を家に泊めることになる。そこから2人の共同生活は幕を開ける。

ドロテアは全く以て謎めいた存在だ。家もどこだか分からなければ素性もハッキリしない。しかし音楽に対する感覚は抜群であり、音楽家であるアントンとはかなり気があう。そういった雰囲気ゆえに、ドロテアはブルガリア版の“マニック・ピクシー・ドリーム・ガール”と言えるかもしれない。そこに中年男性の夢という修飾までつく。そこまで聞くと今作が下らない駄作と思われるかもしれないが、そこで終わらないのが今作の魅力である。

そのうちに発覚するのが、ドロテアは精神病院の患者であることだ。彼女の担当医はドロテアの感覚はあまりに鋭敏すぎて日常生活に耐えられないと言うのだが、もう1つ信じられないことを言う。彼女は人の心を読む超常的な力を持つというのだ。もちろんアントンはそれを本気にはしないが、彼の周りで奇妙な出来事が巻き起こり始める。

監督Christo Christov(フリスト・フリストフ / Христо Христов)が今作を綴る筆致は、すこぶる繊細なものだ。先述の奇妙な現象というものはSF的な大々的なものではなく日常に足のついた奇妙さではあるが、そこには繊細な詩情が宿っている。アントンとドロテアはプラトニックな関係を貫き続けるが、その関係が震わされる時、その詩情は息を呑むほどの美しさへと飛翔する。まるで観ている自分が虹色のクラゲとして宇宙を漂うような感覚をそこでは味わうことになる。しかし更にその詩情が姿を変える瞬間がある。その時の筆舌に尽くしがたい切なさと言ったら、いやいや素晴らしい!

今作の監督Christovは60年代から活動を開始した映画作家である。代表作は原子潜水艦を舞台とした戦争映画"Cyklopat / Циклопът"(1976)や同僚の死体を彼の故郷へと運ぼうとする男たちの姿を描いた"Kamionat / Камионът"(1980)で、両作ともベルリン国際映画祭に出品されている。ちなみに"Barierata"は1980年度のアカデミー外国語賞ブルガリア代表に選出されている。ノミネートすらされなかったがいやいや獲ってもよかったと個人的には思う(実際の受賞作は「ブリキの太鼓」)

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