鉄腸野郎と昔の未公開映画を観てみよう!

鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!の別館。ここでは普通の映画史からは遠く隔たった、オルタナティブな"私"の映画史を綴ることを目的としています。主に旧作を紹介。

Lorenzo Llobet Gràcia&"Vida en sombras"/スペイン、閉じられる円環

Vida en sombras (1949)

"Vida en sombras" / "影のなかの人生" (Lorenzo Llobet Gràcia, 1949, スペイン)

今作の主人公カルロスが生まれた場所は、映画館である。母親がそこで映画を観ている間に産気づき、そうしてカルロスは産声をあげたんだった。彼が映画に魅入られることはもはや運命だったと言ってもいいだろう。健やかに育ったカルロスは必然的に映画界への道を歩み始め、映画監督になったのであるが……

彼の人生は映画に彩られたものである。喧嘩に、友情に、愛に、結婚に。全てが映画を中心として回り続けている。そして監督の演出自体もこの風景を印象的なものにする。というのも舞台となる街はセットであることが露骨なまでに映しだされており、カルロスが映画に生きているのが精神的な意味だけでなく、肉体的にもというのが鮮やかに提示されるのだ。

そして撮影も美しいものだ。カメラワークは流れるような滑らかさを伴いながら、セット=街並み、加えてそこに息づく人々の生をも映しだしていくのだ。更に住居の構造を利用した長回しも絶品であり、その優雅さに目が離せなくなる。だがだからこそ、今後巻き起こる惨劇の悲壮さが際立つのだが。

アンとの結婚生活は幸福に溢れたものであったが、その時間は長くは続かない。突如としてスペイン内戦が勃発したことで、否応なくその戦火に巻き込まれる。状況を圧して映画撮影を行いながらも、その合間にアンが銃殺され、彼は悲嘆に暮れる。

だがそれでもカルロスはカメラを抱えて映画撮影を続ける、いやもはや止められないのかもしれない。映画によって祝福された人生は、映画によって呪われた人生へと変貌していくことになる。そしてこの運命がカルロスの心を破壊していく。

しかしカルロスはカメラを回すことを止めない。この呪いを今再び祝福へと回帰させようとする切実な熱意こそが、彼を突き動かしている。彼にとってカメラを動かすことそれ自体が生存の意志なのである。映画によって1度は苦痛の地獄に落ちながら、映画によって彼は自分自身を救わんとする。

監督のLorenzo Llobet Gracia ロレンソ・ジョベト・グラシアは1911年生まれ、今作が念願の長編デビュー作である。しかしスペイン内戦の描写でフランコ政権に睨まれ、作品は検閲でズタズタにされてしまう。当然だがそのバージョンは観客にも批評家にも愛されることなく、剰え"呪われた映画監督"の烙印を押されてしまう。こうして彼は映画界を去り、1本も新しい作品を作れないまま、1976年失意のうちに亡くなった。

こうして今作によってGraciaが監督生命を絶たれたことを考えると、ラストシーンは別の意味を持つ。内戦を生き延びたカルロスは映画館に赴くのだが、カメラが引いていき、この光景がセット内で繰り広げられる映画撮影ということが提示され、映画は幕を閉じる。"Vida en sombras"という作品はこの最後によって円環を閉じ、どの映画史にも、どの流れにも属さない、たった1つだけで巡り続ける孤独そのものとなる。この悲壮な覚悟が結実するのは、今作がレストアされ、再上映される2016年を待つ必要がある。それは制作の67年後、Graciaが亡くなってから40年後だった。

Vida en sombras (1948) - Filmaffinity