鉄腸野郎と昔の未公開映画を観てみよう!

鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!の別館。ここでは普通の映画史からは遠く隔たった、オルタナティブな"私"の映画史を綴ることを目的としています。主に旧作を紹介。

Román Chalbaud&"La oveja negra"/ベネズエラ、熱狂と狂騒のメロドラマ

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"La oveja negra" / "黒い羊" (監督:Román Chalbaud, ベネズエラ, 1987)

舞台はベネズエラの首都カルカス、この年に位置する古い映画館である。もう既に作品など上映されなくなった廃墟を、しかし根城とする人々がいる。彼らは犯罪者やホームレスなど寄る辺を持たない者たちであり、リーダーである中年女性ラ・ニグアを中心に疑似家族を形成していた。

今作で描かれるのはそんなユートピア的な世界における楽しい乱痴気騒ぎである。中年男性たちは酒を飲みながらお喋りを交わし、若者たちはバイクを乗り交わす。そして他愛ない毎日が、ある種の激しいエネルギーと共に紡がれていくのである。

際立つのは美術の豊かさだ。喧騒と狂騒を詰め込んだ小宇宙は埃臭くも力強い極彩色の装飾で彩られている。登場人物たちのエネルギーも相まって、その光景は例えばフェリーニやエミール・クストリツァの作品を彷彿とさせる。まさかそんな大作家と同種の才能を持つ映画監督がベネズエラにいたなんてと驚かされた。

そんな中、ラ・ニグアの息子であるエベリオが娼婦であるサグラリオと出会う。彼らはすぐさま恋に落ち、映画館で一緒に住むことになる。だが彼女の元夫であるハイロは警官であり、しかも元妻に未練タラタラだった。ストーカーのようにエベリオたちにまとわりつくハイロだったが、彼の執念は段々と手が付けられなくなっていく。

今作は映画でしか描けないような快楽が存分に詰まっている。先述した登場人物たちの狂騒ぶりもそうであるが、彼らが繰り広げる時に滑稽で時に感動的なメロドラマ、そして共同体が悲哀を持ちながらも豪快に崩壊していく風景、刺激的な銃撃戦まで交えた大胆なラスト。そういった様は勇大でありながらも、切ない。思わず落涙を禁じ得ないような力がそこにはある。

Román Chalbaud ロマン・シャルボーはベネズエラを代表する映画作家である。1977年製作の"El pez que fuma"はある娼館で繰り広げられるメロドラマを通じて、当時のベネズエラを活写した作品で、ベネズエラ映画史上の傑作と謳われている。40年にも渡って映画製作を続けており、1989年製作の"Cuchillos de fuego"は母を殺害した男を追い求める復讐者の物語、2017年製作の"La planta insolente"は1899年にベネズエラの国権を奪取したシプリアーノ・カストロについての伝記映画だ。現在も存命で、劇作家としても活躍している。

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