Aivars Freimanis&"Puika"/季節はめぐる、人々は生きる
"Puika" / "ある少年" (監督:Aivars Freimanis, ラトビア, 1977)
舞台は19世紀の終わり、ラトビアの田舎の村。ここでは人々が平穏な時を過ごしている。冬は雪の野原をソリで駆け抜け、春は菜の花畑で寝転がり、夏は深い霧の中で作物を収穫し、秋はサウナを楽しむ。そんなめぐりめぐっていく四季の中で、小さな少年は大いなる自然に囲まれながら成長していく。
この時期はまだソ連の支配下にあったラトビアだが、首都リガを中心として映画製作はかなり盛んだったらしい。そんな時代に作られたラトビア映画史に残る傑作は、自分が今まで観た中でも随一の美しさを誇る作品だった。
物語自体は淡々と季節ごとの人々の営みを描くというミニマルなものだが、台詞は最小限に抑える代わり、画の美しさは息を呑むほど素晴らしい。春の菜の花畑で遊ぶ子供たち、霧に満ちた野原で作物を刈り取る人の影、冬の寒さを吹き飛ばすようにお祭り騒ぎに明け暮れる村人たち。そういった村の営みが美しく捉えられるのだ。監督Aivars Freimanis(アイヴァルス・フレイマニス)もそうだが、撮影監督のDāvis Sīmanis(ダーヴィス・シーマニス)はラトビア人以外は誰も知らないが実は最も偉大な撮影監督の1人なのだと思わせる凄みがある。
ああ、時間は淡々と過ぎていく。四季は綺麗な円環を描いていく。そして人々は平穏なる生を生きていく。ここに浮かび上がる過ぎ行く時の儚さ美しさ、人生の喜びや悲しみ、そういったものをこの映画は何よりも尊く描き出している。正に今作は映画史に残るべき小さな奇跡だ。本物の、小さな奇跡だ。